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院長コラム:「予防矯正」と称する治療に対する私見

「予防矯正」という矯正治療とは一体?

「予防矯正」なる言葉があり、世の中にはそれを謳って患者さんを集めている歯科医院があります。
予防矯正とは既製品のマウスピース様の口腔内装置を夜間使用する治療法です。「筋機能/萌出誘導療法」や「筋機能矯正治療システム」などと称しています。(注1)

その効果について、今までは十分に文書化された症例報告さえ見つけるのが難しい状態でした。また、この治療を運営する会社は治療法の効果を判定する試験を実施しませんでした。さらには、十分な歯科矯正治療のトレーニングを受けていない一般歯科医でも数時間もしくは数日の講習を受ければ製品を購入でき、患者さんに提供することができる状況です。

こういったことから、私はこれらの装置は不正咬合の治療効果はほぼ無い、お金儲けの道具であると認識していました。

マウスピース装置

マウスピース装置

※写真はイメージです

(注1)
「口腔筋機能療法(舌や口唇の動きのトレーニングを行い、不正咬合を治す、または予防する方法)」を「予防矯正」と呼んでいる歯科医師もいます。この療法もきちんとしたエビデンスがあるわけではありません。
異常習癖が無い場合には、口腔筋機能療法のみにより不正咬合は改善しないと考えられています。
また、トレーニングにより舌や口唇の動かし方は修得できても、習慣化がとても難しいことはコンセンサスが得られています。習癖の除去は困難な場合も多いです。

類似装置の論文について

しかしながら、これらの類似装置の効果を示す論文が最近出ました。ある程度信頼がおける研究方法ではありますが、この治療法に確実に効果があることを示すものではありません。

Am J Orthod Dentofacial Orthop.  2008 Feb;133(2):254-60; に掲載された論文
Orthodontic intervention in the early mixed dentition: a prospective, controlled study on the effects of the eruption guidance appliance
Katri Keski-Nisula 1 , Riitta Hernesniemi, Maritta Heiskanen, Leo Keski-Nisula, Juha Varrela

<論文の内容>
フィンランドに住む1992年・1993年生まれの出っ歯の子ども達に、5歳から3年間、既製のマウスピースを夜間使用してもらったところ、出っ歯の程度が軽くなり、永久歯期の矯正治療を受けた人が1人もいなかったという結果でした。尚、この研究の中で、途中で治療から脱落した子どもは44%でした。

5歳から3年間、夜間の装具の使用は大変ですね。脱落率の高さもうなずけます。
5歳ではまだ“人間の子ども”という特徴が主であり、その人の個性は前面には出てきていません。ですから5歳の時点で将来的な不正咬合を予見するのは、経験の豊富な歯科矯正医であればある程度可能ですが、実際は難しいです。この辺が予防矯正の問題点です。

予防矯正に関する私見

予防矯正と言われている方法は、未だにきちんとしたエビデンス(研究の裏付けがある証拠)が確立されているわけではありません。
子どもの成長発育に造詣の深い経験豊富な歯科医・歯科矯正医が勧める予防矯正に関しては、話を聞く余地はあると思います。しかしながら、普通の一般歯科医院で行われている予防矯正は、行われるべき治療ではないと思います。

今あるエビデンスは、「5歳から3年間装置を使ったら、出っ歯が治るかもしれない」と言うことだけです。
この装置を何年使っても、歯のでこぼこは治りません。小学校3・4年生が使っても、出っ歯が治るという証拠はありません。
この既製品のマウスピースを仕入れるためには、数日もしくは数時間の講習を受けるだけで可能です。その際に教えられることはエビデンスが無い治療効果です。
不勉強な歯科医師は、そこで教えられた治療効果を信じて患者さんに効果が無い予防矯正を提供します。
不誠実な歯科医師は、予防矯正の治療効果に疑問があることを認識した上で、患者さんにマウスピースを提供します。これはあくまでも私個人の私見です。
予防矯正を行っている一般歯科の先生のすべてが不勉強か不誠実な歯科医師であるとは思いません。
最初に申し上げた通り、子どもの成長発育に造詣が深く、真剣に予防矯正に取り組んでいる先生はいます。ですが少数です。

さて、不誠実な先生が行っている通常の歯科治療はどうでしょうか。
「自分は専門でないから詳しいことはよくわからないけれど、サプライヤー(納入業者)が効果はあると言うから、予防矯正のためのマウスピースを患者さんに提供して料金をいただいている」と言うでしょう。
さて、その先生が専門とする歯科治療において、その先生はどの様な治療を行っているのでしょうか。
ご自身の専門領域の治療の質を大切にする先生は、他の専門領域に手を出したりしません。専門領域の先生の治療の質には及ばないからです。
もしかしたら、その先生の専門領域は歯科医院の経営かもしれません。

乳歯列期の反対咬合について 

ついでに、乳歯列の反対咬合について簡単にお話します。
前歯の歯軸が悪くて反対咬合になっているお子さんは、前歯の交換期(永久歯への生え変わりの時期)に反対咬合は改善します。ですから、乳歯列で無理に治す必要はありません。
逆に、骨格性下顎前突(下の顎が遺伝的に大きい)のお子さんは、乳歯列で反対咬合を治しても、前歯が交換する時にまた反対咬合になります。
ですから、乳歯の反対咬合は通常経過観察で良いと思います。装置を入れれば治りますが、治す必要はないと思います。前歯の交換後に反対であれば、矯正治療を専門とする歯科矯正医にご相談ください。

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