筋機能/萌出誘導療法・筋機能矯正治療システム・萌出誘導装置を用いた早期治療や予防矯正に対する私見

既製品のマウスピース様の口腔内装置を用いて矯正治療を行う方法が世の中に存在します。筋機能/萌出誘導療法や筋機能矯正治療システムなどと呼ばれています。オーストラリアに本拠地を持つマイオブレースシステム(日本の販売店は株式会社オーティカインターナショナル)が世界的には有名です。その他、日本人が開発したプレオルソ(販売は株式会社フォレスト・ワン)やムーシルド(販売は株式会社JM Ortho)などがあります。

マイオブレースシステムでは、軟組織の機能不全が不正咬合および異常な顎顔面成長の主な原因であるという仮説に基づいて治療のシステムを作り上げています。これは、Mossのファンクショナルマトリックスセオリーの考え方と同様のものであり、新しい考え方ではありません。彼らは、従来の矯正治療は歯を綺麗に並べているだけで、不正咬合の原因を治療してはいないと非難しています。自分たちが行っている筋機能矯正は、子供が小さい時に軟組織と呼吸を矯正することで、顎を成長させ、歯列弓を拡張し、骨格の不調和を修正できるとしています。彼らの理論でいくと、人間は育て方さえ間違えなければ、すべての人がきちんとした咬合を得られるということになります。彼らは、遺伝的拘束性(各個人の個性)は無いものとして考えているようです。

筋機能矯正治療システムには、一連のエクササイズとゆるいポジショナーに似た既製品のマウスピース様の器具からなります。これはフレンケル装置のパクリの様なものです。その効果について、以前は十分に文書化された症例報告さえ見つけるのが難しい状態でした。
さらに、Myofunctional Research は治療法の試験を実施しませんでした。さらには、十分な歯科矯正治療のトレーニングを受けていない一般歯科医でも、数時間もしくは数日の講習を受ければ製品を購入でき、患者さんに提供することができます。

これらのことから、私はこれらの装置は不正咬合の治療効果はほぼ無い、お金儲けの道具であると認識していました。しかしながら、これらの類似装置の効果を示す論文が最近出ました。

Am J Orthod Dentofacial Orthop.  2008 Feb;133(2):254-60; に掲載された論文
Orthodontic intervention in the early mixed dentition: a prospective, controlled study on the effects of the eruption guidance appliance
Katri Keski-Nisula 1 , Riitta Hernesniemi, Maritta Heiskanen, Leo Keski-Nisula, Juha Varrela

<資料と方法>
マウスピース装置彼らは1990年代半ばにこの前向きなコホート調査を開始しました。参加者は、フィンランドの3つの農村地域に住む1992/3年生まれの子供たちでした。彼らは2つの村に住む不正咬合の子供たちに、萌出誘導装置を用いた早期治療 (early treatment with Eruption Guidance Appliances ,EGA)を提供しました。この治療を提供されなかった他の町に住んでいた子供たちは、コントロールとして機能しました。

彼らのクラスⅡサンプルの包含基準は、ディスタルステップが1mm以上、もしくは乳犬歯のⅡ級関係が2mm以上の子供でした。参加者は毎晩装具を着用し、その後、週に2晩リテーナーを使用しました。

T1(治療開始時)での治療群の平均年齢は5.4歳、対照群は5.1歳でした。T2(動的治療終了時)の時点で、治療群は8.5歳、対照群は8.4歳でした。これは、EGA治療の期間が約3年間であることを意味します。

不正咬合の315人の参加者が特定されました。50人が治療を拒否したか、他の予防的方法で治療を受けました。255人がEGAによる治療を開始しました。次に、115人の子供が上記の基準に従ってクラスⅡグループとして選択されました。

このグループのうち、8人は引っ越し、23人は非協力的で、19人は保護者が「器具の素材の影響」を心配していました(計50人)。これにより、治療終了時の資料取りに参加した65人の最終サンプルが残りました。これは 44%のドロップアウト率です。

<結果>
T1での治療群と対照群の平均オーバージェットは3.4mmでした。T2の終わりには、治療群で2.2mm、対照群で4.7mmでした。T3では、治療群のオーバージェットは2.1mmでした。T3の対照群はデータの採取が行われていません。

クラスⅡの頻度は、治療群では100%から14%に減少しました。対照群では100%から78%に減少しました。T1 とT2の間の上顎の大きさには、グループ間に違いはありませんでした。

下顎の長さは、治療群で11.4mm、対照群で6.4mm増加しました。これは統計的に有意でした。T2とT3の間も下顎は成長しました。その結果、下顎骨の成長促すための最適な時期は、初期の混合歯列である可能性があると著者は主張しています。

早期介入グループは、それ以上の治療を必要としませんでした。

<彼らの主張>
初期のEGAによるクラスⅡ治療は、歯と骨格に重大な影響をもたらしました。これらは安定しているように見えました。その結果、早期の介入により、Ⅱ期治療の必要性がなくなりました。

彼らの研究は評価されるべきものでありますが、RCTではありません。結果に対してバイアスがかかっている可能性が十分にあります。治療を開始した255人から115人のサンプルを選択していますが、Ⅱ期治療を行わなかった、言い換えれば早期治療の結果が良好であったサンプルのみを選んだ可能性がなかったといえる根拠はありません。

また、治療グループの下顎が大きくなったと著者らは主張していますが、これは治療グループが38人の女の子 (58%) と27人の男の子で構成されていたのに対し、対照群は26人の女の子 (44%) と32人の男の子で構成されていました。その結果、グループは性別のバランスが取れていませんでした。これは、特に顔の成長に関して、結果に影響を与えた可能性があります。平均値でいえば男の子の方が下顎は大きくなる量が多いです。男の子の比率が多い治療群で下顎が大きくなったことは当たり前かもしれません。

また、これがクラスⅡの患者サンプルであったにもかかわらず、治療開始時の平均オーバージェットがわずか 3.4 mmであったこと、さらに、3年間という長期間の治療後に2.2 mmになった結果に意味があるかどうかは検討の余地があります。

さらに、この治療が有効であったかどうかを検討する必要があります。これは、治療の完了率を見て判断できます。患者の42/115(36%)が完了しなかったようです。これは他のいくつかの機能的アプライアンスの研究と似ています。オーバージェットの変化がほんの少しであった結果と非協力率の高さを考えあわせると、3年間の治療の負担を正当化するものなのだろうか疑問があるかもしれません。

上記の様に、萌出誘導装置を用いた早期治療が上突咬合の患者のオーバージェットを減らし、Ⅱ期治療が必要無くなるという可能性が示されました。そのためには5歳から3年間、夜間の装具使用が必要です。
予防矯正などと言われている方法は未だにきちんとしたエビデンスが確立されているわけではありません。ですから、それを安易に患者さんに適用すべきでないことは周知の事実です。この種の治療は経験のある歯科矯正医がその患者さんの将来の咬合を創り上げることに責任を持った上で、また、十分に御両親と相談した上で行う必要があると私は考えます。

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