甲北信越矯正歯科学会

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昨日はスーパーあずさに乗って塩尻まで日帰りしました。目的は甲北信越矯正歯科学会に出席すること。お目当てはシンポジュウム「大学における矯正臨床の現状」

大学におけるという冠がついているので当然教育についても語られるモノだと思い楽しみに出かけていきました、最初の2人先生は少し教育に対して触れておられました。今まで医局の歴史や業績を紹介され、その立場にふさわしい発表でそのご配慮に敬服しました。 もう少し明確にご自分の考える「あるべき矯正臨床の形」を示していただけると良かったと思いました。3人目の先生はこの点からいうと大学で行われている矯正臨床の形および基本的なフィロソフィーを示しておられました。残念だったのは、「大学における矯正臨床の現状」というタイトルに忠実にお話ししていただいたので、教育についてのお話しがなかった事でした。個人的な感想ですが3人目の先生のお話をききながら、どっかで聞いたような話だなと思ったら、私が2002年に日矯で話した内容とほぼ一緒でした。私の話から教育の部分を抜いたお話しでした。テーマが同じで、語る対象が同じであれば同じお話しになるのは当然ですが、わたしがそのお話しをしたのは2002年です。当時から「大学における矯正臨床の現状」には問題があったのでシンポジュウムのテーマになったのです。どんな問題かというと隣の大学がどんな矯正臨床をやっているか知らないという状況であるにもかかわらず、学会は学会認定医という資格を認定していました。日本には29の歯学部・歯科大があります。29の大学でどのような矯正臨床が行われ、どのような教育が行われているのかお互いに知らない状況で資格認定が行われていたと言うことです。それではいけない。あるべき矯正臨床の形、凄く大きな枠でもいいので作ろう。そのための一歩として2002年に日本矯正歯科学会で

「症例をとおして卒後臨床教育を考えるー明日の矯正臨床医とともにー」

というシンポジュウムを企画し新潟大学、東京歯科大学、東北大学、大阪歯科大学、東京医科歯科大学、愛知学院大学で教育を担当している教員が自分たちが日々行っている矯正臨床と教育について発表しました。それから、6年の歳月がながれ、トップが変わっても全く現状が変わらないといったところに問題の本質があると思って聞いていました。そうしたら、討論で昨晩、新潟大学と松本大学の医局員で交流を持ち矯正臨床について語り合う機会をもったというお話しを聞きました。少しずつ良い方向に歩を進めている事がわかり方法は違えども向いている方向は同じなのかなと感じました。ただ、世間の矯正臨床の状況がその歩みを待ってくれるか、どうかは疑問です。物事が良くなる前に患者さんがそっぽを向いてしまう可能性もあります。物事を変えていくときにはある程度のスピードが必要ではないでしょうか。

話題を変えます。講演中にEBMという言葉が出ました。EBMとはエビデンスに忠実に従うのではなく、患者さんの考え方や要望、術者の経験や考え方を総合して治療方針を決めることだとおっしゃっていました。その通りです。私ごときの開業医のレベルでは100点満点の答えです。でも大学というところはエビデンスをつくる所です。もっと厳しくエビデンスに向かう姿勢が必要だと思います。エビデンスもどきの論文ではなく、世界に認められるエビデンスを作る必要があると思います。縦断的な手法が必要であればそのように研究のデザインをすればいいし、サンプル数が集まらないのであれば集めるための仕組み作りから始める必要があると思います。それをしないで、EBMの世界で認めらないような中途半端な仕事をするのであれば、EBMを語るべきではないと思います。少なくともいい加減な論文が減れば、詮索すべき論文が減ってEBMを実践する側は樂になります。

シンポジュウムの討論の話題の一つに、I 期治療の目標としての鼻呼吸があがっていました。確かに、口呼吸は直して鼻呼吸ができるようになった方が良いと思います。だからといって、I 期治療の目標に鼻呼吸ができるようになることを入れることはどうかと思います。だって私たちは歯科医師だから。私たちに許される医療行為は歯を動かす事だけです。歯に付随して歯槽骨やら顎やらをほんの少し形態変化させることはできるようですが、所詮はほんの少しです。我々が「上顎を拡大して鼻呼吸ができるようにしますよ。」と一般の方にいったらお縄になるでしょ。医師法違反で。だって医者じゃないんだから。鼻呼吸ができない患者さんの歯並びとかみ合わせにとっては、「鼻呼吸ができ口唇閉鎖ができた方が良い結果がえられるからがんばって鼻呼吸できるようにしましょう」と働きかけることは私もしているし、当たり前だと思いますが。口呼吸を直すことをI 期治療の目標に掲げることはどうかと思います。患者さんの生活に踏み込んでいかないと治りませんから。そのような事を希望されている患者さんであれば問題はないですが、そこまで、歯科矯正医に踏み込まれたくない患者さんもいます。このような観点から、形態をかえて口唇閉鎖を行いやすくする。その上で鼻呼吸の練習をする。ぐらいにとどめておいたほうがいいと思います。大上段にかまえて口呼吸はだめというのはちょっと、私はしたくない。

トンジラ、アデノイドの問題も関連がありますし似た問題だと思います。歯科矯正医の目からすると、大きな口蓋扁桃(トンジラ)咽頭扁桃(アデノイド)取っていただけたら、舌が後ろにこれるなー、鼻呼吸が楽になるナーと思う患者さんはいます。だだ思春期が大きさのピークでその後小さくなる組織なので、耳鼻科の先生方は最近あまり切除に積極的ではありません。本当に切除が必要なのであればEBMを作るべきでしょう。本当に有用なものであるのにそのEBMが現在ないとしたら我々の怠慢だと思います。EBMをつくろうとしたのにでなかった。のであれば必要がないことかもしれません。「顎の成長のためにいいとおもうからトンジラ切除してみようか?ほんのちょびっと生命にリスクがあるけど」という状況では患者さんに勧められないとおもうので、切除をするべきだという先生は発言と同時に患者さんのメリットを世間で通用するエビデンスとして用意する覚悟が必要だと思います。

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このページは、星歯科矯正が2008年6月 9日 14:18に書いたブログ記事です。

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