2009年3月アーカイブ

君に幸あれ

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昨日は新潟大学の歯科矯正学教室の送別会で新潟へ行ってきました.今回医局をお辞めになる先生は3名,中村先生,松原先生,鳥巣先生の3名.大学在職時に私は中村先生の指導をした事になっている.私は彼をいじめこそすれ,指導した覚えはない.送別会に先立つセミナーでみた彼の症例の仕上がりは写真で見る限り良いモノであった.いろいろと問題がないわけではないと思うが立派な矯正医になったとおもう.亡き小林元夫先生も安心してくれるだろう.私もいじめた(指導した)甲斐があったというものである.そんな縁でなにか一言送別会で話せと言われていたのであるが,なにもアイディアが浮かばず,「中村先生,中村先生,大将,大将」とつぶやきながら, 新幹線に乗っていた.すると,車窓から遠くの煙突にでかでかと書かれた「深谷ネギ」の文字が見えた.中村先生には冬になるといつも彼のおじいさんおばあさんが丹精込めて作ったネギをいただいていた.そんなことを思いだしていたらふと,松原先生と鳥巣先生の顔が出てきて3人の送別会であったことを思い出した.中村先生だけでなく3人に対してのお話しをしないといけないと思い直した.一生懸命考えたのだがお酒が進んでいたのと,場の雰囲気が長話になじまなそうだったので適当にお茶を濁してしまった.後悔したのでここに記すことにした.

テーマは自己決定

大学をやめると,色んな事を自分で決めなくてはならない.松原,鳥巣の若い二人(丹田先生は二人と同じヤンググループらしい)に一番切実なのは患者の治療方針の決定であろう.もう症例検討会はない.もっと大変なのは助講師室に森田先生はいないのである.夜中に行き詰まって,「ちょっと御相談があるんですが」とノックすることはもうできないのである.治療方針に悩んだとき,相談できる人が身近にいると精神的には楽である.だが,ほとんど成長しない.だって真剣に考えないから.鳥巣,松原両先生は成長するための決断をした.中村先生はすでに夜中に助講師室をノックすることは卒業している事と思う.かれは開業するのであるからそれこそ診断以外にも自身で決定する事が多くなると思う.大切な決定をきちんとできるようにいつも体調を整えておくことをお勧めする.体調が悪いときに無理に決定をしないこと,決定そのものを先延ばしするということも重要な選択枝であることを頭に入れておいてほしい.それとうそに騙されないこと,色んな業者が勧誘の電話をかけてくる.ホームページを作りましょう.広告はいかがですか.インタビュー記事を作成します.皆さん一生懸命に売り込んでくる.礼節を重んじて来られる方がほとんだが,なかには礼節を欠いた方もいらっしゃる.どちらの方々もほとんどの方がうそとは言わないがかなりの誇張をされる.「ホームページを作れば,ばんばん患者さん来ますよ!」「タレントの○○がインタビューに伺います.その記事を雑誌に掲載します.」ホームページを作っただけで患者さんが来る時代は終わった.インタビューを受けると料金を請求される.うそとは言わないがかなりの誇張である.私自身の業界でもかなりの誇張がある.「抜かない矯正」すべての人に抜かないでは無理.「最初にワイヤーを入れたときに痛がる患者さんが減りました.」エビデンスはあるの.ないならうそでしょ.でも,我々が生きている社会は資本主義社会である.お金を儲ける事をやめては生きてはいけない.みんな,ぎりぎりのところで営業努力をしてくる.大切なことは,うそ,誇張を見破る知識と目が必要であるということである.矯正のサプライヤーでも明らかにうそを言っている会社もある.「この装置を使うと治療期間が短くなります」「この装置を使うと非抜歯で直せます」信頼できるエビデンスはない.うそじゃん.さらにいえば悪魔のような名を持つその装置の開発者はみんなの前で一言も「早く治る」とは言わなかった.「来院回数が減る」と言っただけである.さらに,「日本人の叢生症例では抜歯を行うべきケースが多い」と言った.にもかかわらず会社は「この装置を使うと治療期間が短くなります」「この装置を使うと非抜歯で直せます」という.幸いなことに新潟大学はスタンダードエッジワイズという昔からある歴史的な装置による治療法を選択し教育している.スタンダードエッジワイズは最も根源的なエッジワイズ装置で,今あるエッジワイズ装置(矯正装置)の基礎をなすものである.歴史を紐解けば,エッジワイズ装置は1928年にAngleが作った.四角い針金を四角い溝に入れることで,歯の移動を3次元的にコントロールすることができるようになった画期的装置である.日本に入ってきたのは1960年代後半.割と歴史は古くない.その後,技術革新かどうか知らないが,プレアジャステッドブラケット(ブラケットに歯の形や歯面の傾斜の情報が組み込まれたシステム,平らなアーチワイヤーを入れるとある程度(平均値的に)歯が並ぶ)と既製ワイヤーが開発された.開発したアンドリュースは矯正治療をもっと普及させたくて術者の技量によらないシステムを作りたかったんだろうが,できあがったものは結果として矯正臨床の質の向上はもたらしていない.サプライヤーは言う「ブラケットを歯面に接着して既製のワイヤーを入れるだけで歯が並びますよ」確かに歯は並ぶ,しかし咬まない.美しくない. プレアジャステッドブラケットを使った治療でも最終的に仕上げるときには患者さん個人個人に合わせたアイディアルアーチを入れなければならない.それをしなければ平均値に押し込めるだけの「手抜き」である.最終的に個人の歯列弓の形態に合わせて形態を整えるのであれば治療途中で平均値のアーチフォームの既製ワイヤーを入れるのは回り道でしかない.スキーウエアと同じ色のエラスティックもそう.技術革新かも知れないが「手抜き」え!違う?どーして.リンガルの人たちがよく言うじゃない.「こんな時は結紮線でしっかり結びましょう」ってね.しっかり結べないんじゃんゴムだと.毎月変えないといけないしプラークの巣になるしいいことないと思うんだけど.何でみんな手抜きするんだろう.新潟大学ではスタンダードエッジワイズを基本からたたき込まれるので,少し考えるとプレアジャステッドも見方によっては手抜きだし,色んな新しい装置も実は昔からある装置の焼き直しでしかない事がわかる.本当に,それが患者さんのためになるものか,実は業者のためにしかならないものか判断がつく.それが,最初からプレアジャステッドだけで矯正を学んだ人はワイヤーが曲げられないだけでなく,歯を動かす仕組みも理解していないことが多い.ま,新潟大学にいても学ばない人は一杯いますが...今回送られる3人の先生はそんなことないので自分の業界のことであれば本物と偽物を区別できると思います.他の業界の誇大表現は追々学んでください.もっとも,3人とも夜の女性に騙されるのは大好きだからな.

こんな事を話したいと思っていた.すごい量だね.話せるわけないし.


新たな出発をお祝いいたします.

早期治療はやるべきか?

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人使いの荒い先輩の依頼で今朝書いた文章をアップします.

矯正治療の早期治療はするべきか否かという問いに対する答えです.


10歳以前で行う歯科治療でエピデンスがあるのは乳歯の臼歯部交叉咬合,早く治した方がよい(削合する)とコクランライブラリーにありますね.http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0055/4/0055_G0000154_T0002032.html 混合歯列期の臼歯部交叉咬合の拡大は治療効果のエビデンス弱いみたい.


基本的には永久歯で治療した1回だけ治療と早期治療した上で永久歯で治療した2段階治療のもので治療期間や治療結果の質に差はなかったとする報告が多いようです.ただこれらは平均値でものをいってますから,個々の症例の物語では,早期治療をしたからこそ良くなった症例もあるでしょう.


その他,矯正治療の結果についてのエビデンスではないですが,過度の出っ歯(歯医者の言葉でいうと過大なオーバージェット,私たちの言葉で言うと著しい上突咬合)の患者さんは外傷(脱臼,破折)の危険性の軽減のため一時的に上顎前歯を後退させる治療が推奨されています(おもに欧米).この場合,この治療だけではきちんとした永久歯列にはならないので永久歯列での治療が必要になります,


あと,反対咬合(下突咬合)は10歳以前で一度治します.歯の生える方向が悪く反対咬合になっている人はこの時期に治せば反対咬合が再発することはありません.骨格的に下顎が大きくなる遺伝的要素を持っている方は,思春期の成長で身長がぐんと伸びるときその要素が具体化しますので(下顎は手足の骨と同じ長管骨です.グンと伸びる時期も一緒です)反対咬合が再発します.たとえこのような人でも審美的に問題がある反対咬合のままで多感な小中学校の時期を長期間過ごすことはかわいそうです.再発の可能性を説明した上で一度反対咬合を治します.

〔もう一つ理由あります.治療の効率からいうと,骨格的に反対咬合になってしまう人に早期治療をしても意味がありません.後から振り返れば時間とお金の無駄でしかありません.私たちのようなちゃんと経験のある専門医(自分で言うな?)はこの人が骨格的であるかどうか判断できます.でも,初診もしくはまだ信頼を得ていない状態で「お宅のお子さんは骨格性の反対咬合だから今治療しても思春期にも再発する.だからこのまま経過観察です.」と言い放ったとき,患者さんの親御さんは「そんなことはない.こいつが藪だからそんなこというのだ他の歯医者に行こう.」となります.実際私の患者でも,経過観察の途中で来なくなり,一般歯科で10年間チンキャップの治療をしたのち18歳でやっぱり治らなかったといって,顎切り(手術です)をしに戻ってきた患者さんがいます.(一人じゃないよ)〕今は診断時にこのようなことをすべてお話しして患者さんに選択していただいております.もちろん,どちらがいいか私の意見は伝えた上で.


話を戻します.たいていの患者さんは歯の問題と骨格の問題が混ざっています.その混ざり具合で再発するかどうか決まります.専門医ならある程度,将来を見越して効果的な無駄のない治療を選択することができます.ですから個々のケースについては専門医に相談してね!ということになります.

ほぼ1ヶ月

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前回の更新が2月19日,今日が3月17日ほぼひと月更新をしていませんでした.読者の皆様申し訳ありませんでした.(読者がいればの話であるが,まあ謝るのは問題ないだろう)3月5日に日本矯正歯科学会の代議員会があり参加してまいりました.その事を書かなければと思っていたらあまりにも重いテーマで今日まで何も書かないで過ごしてしまいました.

ということでそれはそれとおいといて適当な文をまた書きます.

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