甲北信越矯正歯科学会

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昨日は甲北信越矯正歯科学会で発表のため新潟市まで出かけてきた.インプラントアンカーのシンポジュウムがあった.

今朝,村上春樹のインタビューが読売新聞に掲載されたとの記事を見つけた.

http://www.radiodays.jp/blog/hirakawa/

物語の有用性と「降りていくとはどういうことか?」という問い立てに興味を引かれた.私なりの解釈は「降りていく」とは当事者になる覚悟であると思う.問題を個人の立場で解決しようと努力することだと思う.

この点で鑑みると昨日のシンポジュウムのシンポジスト,モヂュレーター,最初の質問者も含めて,当事者のような顔をしていたが,「問題を解決しよう」という意識はあまり感じられなかった.私自身は当事者であろうと呼ばれてもいないのに演題を抱えて発表にいった.それはなぜか?その理由は多分,新潟大学でインプラントアンカーを初めて使用したのが私だったからである.自分にはそうする責任があると自分で思っただけであるが.

私が使用しなくても遅かれ早かれ誰かが使ったと思う.しかし,現実に最初に使ったのは私だし,「上顎臼歯の頬側に使うのならK1でなくスマップがよい」という カノミ先生の言いつけをまもったがために,新潟大学ではプレート型がほとんどになったのだと思う.周りの人に結果を示し有用性も説いた.いわゆるファーストペンギンであった.生き残ったファーストペンギンには何かしら責任が生じる.

最初にインプラントアンカーを製品化した会社がきちんと薬事を通しておらず,矯正治療のアンカーとしてではなく,骨接合材料として薬事を通した.

そのため,矯正用アンカーに用いた場合は目的外使用となり歯科医師の個人の裁量で使用することとなった.すべての責任は歯科医師にあり,製造者に責任は及ばない.その旨,患者さんに伝えた上で使用しなくてはならない.上顎臼歯の遠心移動や垂直的コントロールなどインプラントアンカーを使用すれば容易に治療ができる症例があり,患者さんのためになると信じている.現在のところ日本矯正歯科学会と矯正機材協議会が厚労省の指導をうけ,薬事を通すべく努力している最中であるらしい.その条件は安全で患者に有用で誰でもできなければいけない.ということらしい.安全の意味は脱落率が一桁であることを要求されているらしい.このことは私は知っていた.一時期行われたインプラントアンカーの講習会は目的外使用であるのでまかりならん.のだそうだ.そのような状況で,どのような手段で安全に誰にでもできるようにインプラントアンカーの植立方法を広めた上で,脱落率を一桁にしろと言うのであろうか.私は医療行政のシステムに瑕疵があるとおもった.でシンポジュウムで質問した.このような状況になったのは医療行政のシステム(薬事法)に多くの問題があるのか?申請した歯科業界のやり方に多くの問題があったのか?と

シンポジストの一人が上記の私が知っている事を私は知っているが当事者ではない当事者は日矯であると前置きした上で前述の顛末を話した.彼はインプラントアンカーの講習会をしていたとシンポジュウムで話していた.そうであればすでに当事者であるべきである.インプラントアンカーが使いやすくなるように努力すべきポジションにいると思われるがいかがであろうか.彼の言葉からは,どうすれば早く薬事をとおして患者さんに適応しやすい環境にできるかという具体的な行動指針は全く見いだせなかった.彼は韓国系マイクロスクリュウのはずれたらまた打てばいいじゃんと言う考え方では脱落率は改善しない.また,インプラントアンカーのタイプを確かめて適切な使用方法で使用せよと真っ当な考え方を示す一方で,矯正歯科医がインプラントアンカーを埋入することを推奨した.講習会もできない現状で矯正歯科医がインプラントアンカーを埋入することを奨励すれば脱落率は下がらない.口腔外科医に症例を集約させ脱落率を減少させ,早く薬事を通すことを考えるべきだと思う.かれはそうはいっても近所に口腔外科医がいない地域もあると言っていた.ではその地域では埋伏智歯の抜歯も困るでしょうから口腔外科医として医師の偏在の問題に取り組むべき,と思うがそうは考えないのであろうか? そもそも,インプラントアンカーが本当に必要な症例の数は多くない.矯正歯科医は安易に使いすぎていると私は思う.発表者にもシンポジストにも重ねあわせも出さずにインプラントアンカーの効果を論じている演者がいたが笑止である.

モデレーターからも何のためにこのシンポジュウムを企画したのかの意図は伝わってこなかった.このような状況でインプラントアンカーのシンポジュウムを企画したのであれば何とか現状を打開しようとする方策を考えるべきなのではないか?そのためには,いかにして現状になったかの原因の分析とそれに基づく今後の行動指針を示すことが重要なのではないか?

なぜ,最初の会社は骨接合材料として申請したのか?もともと,コーポレートガバナンスが最低の会社であったのか?一社単独ではお金がかかりすぎたから?早く発売したかったから?

1社単独ではお金がかかりすぎるのであれば,矯正歯科業界で集まって薬事を通すことも考えられる.そもそも,そんなに利益を生まない医療器具の薬事申請に過大なお金がかかるとしたら,日本の医療行政システムがよくないと言うことになる.そうであれば,政治家に働きかけるなり当事者としての行動が必要になると思う.薬事の申請に時間がかかると言う問題も同様である.システムに瑕疵があると言う声を上げなければ改善の糸口にすら辿り着けない.

インプラントアンカーの現状における問題は患者さんの反応ではなく歯科医師と歯科医師を取り巻く社会との関わりにある.その点を掘り下げなければただの時間つぶしにしかならない.明日からの行動指針にはなり得ないのである.



全く関係ない事を付け足す.あの人は動物実験の結果はEBMのエビデンスにはなり得ない事をご存じ無いのだろうか?

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このページは、星歯科矯正が2009年6月22日 16:59に書いたブログ記事です。

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