2008年8月アーカイブ

第53回西日本歯科矯正学会

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昨日は福岡に行ってまいりました。昨年に引き続き西日本歯科矯正学会(発音は、「にしにっぽん」です。さあみなさん声に出して、さん、はい!)の学術大会で講演させていただきました。今年は第53回だそうです。とても歴史のある学会です。私のへなちょこ講演はさておき、演者の先生方皆さんすばらしい講演をされていました。特に感銘を受けたのは北九州市でご開業の今村均先生のご講演でした。タイトルは


「デジタル時代における画質向上への取り組み」


デジタルカメラの特性やデジタル画像の成り立ち、画質の調節の仕方等、私がこれまで何となく感覚で行っていたことの原理を分かりやすく解説していただきとっても勉強になりました。さらにはデジタルレントゲンの長所、短所についてわかりやすく解説していただきました。ありがとうございました。逆ガンマーよく覚えましたよ!


午後から特別講演が2題ありました。


1題目は歯科医師免許をもつ弁護士 植松浩司先生による


「歯科医師である弁護士から見た歯科医療紛争」


2題目は北里大学医学部衛生学公衆衛生学、和田耕治先生による


「歯科医院における一部の患者による暴言・暴力対策」


お二方ともほぼ同じトピックについてお話しになっておられました。


いわゆる最近流行語になっている


「モンスター○○」


といわれる方々への対処法です。


日頃から漠然と患者さん第一の診療を心掛けようと漠然と思っていましたが具体性に欠けると言うことを思い知らされました。


患者さんに良い医療を提供するためにはスタッフに気持ちよく働いてもらわなくてはなりません。そのためには暴言・暴力に訴える患者さんが居られた場合に毅然としてスタッフをまもるシステムを医院に構築する必要があることを気付かされました。和田先生ありがとうございました。和田先生、職場はお近くですね。今度あそびにいってもいいですか?

ブラックペアン1988

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またしても海堂さんの小説からの引用です。

関川医師が初めて食道自動吻合器『スナイプAZ1988』を用いて行ったオペ中。スナイプAZ1988の操作ミスにより生じた食道断端と小腸断端の縫合不全を同僚医師にかわり、従来の方法・手による縫合の繰り返しによりリカバリーし、事なきを得ばかりの講師・高階権太に東城大学医学部総合外科学教室教授・佐伯清剛が言った言葉

「お前の企ては自己破綻している。このオモチャが一般化するためには、今日のような失敗をしたときにリカバリーできる外科技術があることが前提だ。だが、オモチャが一般化した場合、外科医からそうした技術習得の機会を奪うことになる。この自家撞着をどうするつもりだ、子天狗」

子天狗と呼ばれた高階は帝華大学出身でマサチューセッツから『スナイプAZ1988』をもちかえり東城大学に赴任してきた新進気鋭の外科医である。佐伯はその経歴と性格から高階を『帝華大の小天狗』と呼んだ。高階はマサチューセッツから持ち帰った食道自動吻合器『スナイプAZ1988』を使うことですべての外科医が簡単に食道癌の手術ができるようになると信じてその普及を行おうとしていた。しかし、冒頭のセリフのようにオモチャを使うことが良い面ばかりでないことを認識していた佐伯は、『スナイプAZ1988』をもちいたオペで3例高階の助手を務めた関川を術者に指名した。さらに高階にはオペ室に入ることを禁じた。

そして、ミスが起きた。オペ室に行くことを佐伯に禁じられオペ室に行こうとしない高階の頬を1年目の世羅が張って、オペ室に連れて行った。

その術後のセリフである。


自家撞着そのとおりである。外科系の医療では術者の技術の問題は避けて通れない。学部教育の現場ではそれは誰も口に出さない。歯科も外科系の医療である。最低限の手先の器用さがなければ歯科医はできない。歯科矯正治療は一般歯科とはまた違った技術を必要とし、治療期間が長期間であることからその習得に時間がかかると言う特徴がある。ワイヤーとブラケットで歯を動かす装置が約100年前に開発されて以来、歯科矯正治療ではワイヤーを曲げる技術の習得が必須であった。1972年にアンドリュースがストレートワイヤーを世に送り出した。さらにマテリアル、特に新しいタイプのワイヤーが世に出てきて、ワイヤーを曲げることなく歯科矯正治療ができると謳い人を騙す人々がでてきた。ストレートワイヤー法を用いたとしてもアイディアルアーチは曲げなければいけないし、そもそも平均値でできたブラケットであるから、個人個人の歯の大きさにあわせて最終的な調節はワイヤーを曲げて行わなければ、それ以前から存在するスタンダードエッジワイズ装置を用いた治療によるゴールと同じ質にはなり得ない。そもそも、ストレートでは細かなワイヤーの曲げは省かれたが、アーチフォーミングと呼ばれるワイヤーの調節は必要であるとされている。アンドリュースの言うアーチフォーミングとはワイヤーを曲げることそのものである。ストレートワイヤー法でも針金を曲げる技術は純然として必要なのである。それを誰かが言い始めた。ワイヤーを曲げなくていいから簡単にできる。技術の習得が簡単。そそのかされ技術もないのにストレートワイヤーを用いて患者の矯正治療を初めて治らない。どうしよう困ったと思った歯科医師は沢山いたと思うし、今もいると思う。くり返して言うがストレートワイヤーでも針金を曲げる技術がなくては治療はできない。しかし、ストレートワイヤーを用いると確実にワイヤーを曲げる機会は減る。そうすれば自然にその技術は衰える。それを隠そうとしてワイヤーベンディングなんて必要ないと強弁する。悪循環である。『スナイプAZ1988』と同じ構造である。

最近ではクリアナンタラだとかはめるだけの装置を技工所につくってもらい順番に入れていけば治るといって、一般歯科医に積極的に教えている矯正専門医がいる。関川はスナイプの誤操作により生じた縫合不全を解消するだけの外科手技を持たずにオペをした。手術場にいた医師の誰もがその技術を持っていなかった。世羅が高階の頬を張らなければ患者は死んでいたのである。(小説ではもう一人熟練の外科医がひかえていたので高階が行かなくても患者は死ななかった様であるが)一般歯科医が行うクリアナンタラでの治療もこれと構造は一緒である。歯科矯正治療の対象となる患者は生きている人間である。一人一人反応は違う。その反応を読み取り毎月細かな治療方針の変更をしながら治療を行っていくのである。こうした能力は教育を受けていない歯科医師にはない。装置を入れているだけで治るわけがない。そもそも補助装置なしでは歯の挺出はできない装置である。きちんと治るわけがない。患者が死なないからいいのか?そうじゃないだろう。治療の結果として患者が死なないからこそ、医療の質は術者が担保しなければならないのではないか。患者がこれでいいと言ったからそれでいいのか?それはあなたが患者に正しい情報を教えてないからでしょう。「きちんとした矯正治療の結果はこういう物です。」という情報を与えていないからでしょう。そもそも歯科医師がきちんとした矯正治療の結果をご存じないのかもしれない。クリアナンタラを一般歯科医に広めるのはかまわないが、教育をきちんとして、その歯科医師が行う治療の質の担保をすべきである。なぜなら、お金を取って教えているのでしょうから。教えるあなたはあなたの教え子の患者さんに対しても責任があると僕は思いますよ。

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